出発が間近になったころ、皮肉にも あの 風土病のような不治の病の特効薬ができていた。 ワクチンのようなものだったが 宇宙船に乗り込んだ人の中にもそれを飲んだ人もいた。 宇宙船が出発してしまった後に残された人々は約5万人だった。 そのうち 病人は1万人で後の人は自ら望んで残ったのである。 まず病気の人は残った。 これは自主的に残ったということだったがとても一緒に行ける 雰囲気ではなかったということである。 また宇宙船に乗った人たちも連れて行こうとはしていない。 暗黙に 君たちは 残りなさいね  という雰囲気だったようだった。 だから 表向き 自主的に残ったということにしているようである。 病気の子供のある家族は残った。 親は子供に何もしてやれず ただ ただ 枯れていく 子供を見ているしかなかったのだが ただそこに残ることを選択している。 付き添う人たちは自由意志で残った。 老人などはどんなに 荒廃していようとも 慣れ親しんだ 故郷を捨てられず そこで死んでいくことを選んだ人たちもいる。 恋人同士で残る人たちも い た。 これは男性が病気にかかっていて、女性が一緒に残っている。彼女の手の中で男性が息を引き取る。 しばらくして女性がヒューヒューという 何か 笛のような音を出している。どうやら 歌のようだった。 大地と一つになってまたここで生まれ変わろうね、という歌だった。今この恋人たちの魂はどうなっているのか。 そうすると まだそこにいるのである。魂になってもそこに留まることを望んだ人たちだった。 もはや 進化を望んではいなかったのである。 宇宙船に乗った人たちの中にも後から発病する人も出た。ワクチンを飲んだ人の中にもそういう人はいたのである。 この病は伝染病だと分かっていたから 狭い 宇宙船の中では致命的な出来事だ。 だから発病した人間は自ら 船外に出て死んだということだった。 しかし そんなことはやっぱりなくて外に捨てられたということである。 それならばそうと言えばいいと思うのだが、 この辺りが少し自己欺瞞の気があるようだ。